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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)8484号 判決

原告

山一石油株式会社

被告

日本保障陸送株式会社

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告に対し金二九万二、七六九円及び内金二六万二、七六九円に対する昭和五〇年四月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告に対し金三九万九六二円および内金三四万九六二円に対する昭和五〇年四月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告らは、「原告の請求を棄却する。」との判決を求めた。

第二請求原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

分離前の相被告浅川一典(以下「浅川」という。)は、昭和五〇年四月二日午後二時三〇分頃、東京都大田区本羽田二丁目一番六号原告会社萩中給油所において、自己の運転する大型貨物自動車(T九五一Q―二二〇五四号。以下「加害車両」という。)の給油終了後、同給油所を発進するに際し、自車左後部を右給油所内の六四W型計量機(以下「被災計量機」という。)に接触させて、これを破損し、使用不能にした。

二  責任原因

被告日本保障陸送株式会社(以下「被告会社」という。)は、自動車の陸送を業とする会社であつて、浅川を従業員として雇用しているところ、本件事故は、被告会社が三菱ふそうから加害車両の陸送の依頼を受け浅川に大阪まで陸送させる途中において、浅川が前記給油所内でサイドミラーによる後方確認を怠つた過失により惹起されたものである。したがつて、被告会社は、使用者として民法第七一五条第一項の規定に基づき、また、浅川の選任及びその業務の監督に当たつていた被告会社代表者である被告榎本は、民法第七一五条第二項の規定に基づき、それぞれ原告の被つた後記損害を賠償する義務がある。

なお、加害車両が前記給油所を発進する際、原告の従業員二名が公道に出やすいように加害車両の前方で左右に分れて公道上の車両の通行規制にあたつたが、浅川は、加害車両の左側にいた原告の従業員が被災計量機と接触するおそれがあつたので大声で停車を命じ、かつ、両手で停車するよう合図したにかかわらず、これに気付かず漫然右折進行し続けたため、加害車両左後部を同機に接触させ、更に一たん停止後、自らの判断で加害車両を後退させて、同機を破損するに至らしめたものである。

三  損害

(一)  被災計量機修理代等金二七万四、〇四〇円(代替計量機の賃借料金二万二、〇〇〇円を含む。)

(二)  消防署申請手数料 金六万円

被災計量機を取り外して代替計量機を仮設した際と被災計量機の修理完了後再設置した際に消防署係官の立会検査を申請した費用

(三)  被災計量機使用不能による逸失利益 金五万六、九二二円

被災計量機は、前記給油所で唯一の軽油計量機であつたところ、本件事故のため右計量機は使用不能となり、代替計量機を仮設して消防署の許可を受けて営業を再開するまで三日間軽油の販売ができなかつた。ところで、前記給油所の軽油販売量は、昭和五〇年一月(営業日二三日間)四三、四七九リツトル、同年二月(同二三日間)五〇、六六九リツトル、同年三月(同二五日間)五七、二五四リツトルであつたから、三か月間の一営業日の販売量は二、一三二リツトルとなり、当時、軽油一リツトル当りの仕入価格は金四八円一〇銭、販売価格は同五七円であつたので、利益は一リツトル当り金八円九〇銭となる。よつて、三日間の休業による逸失利益は金五万六、九二二円である。

(四)  弁護士費用 金五万円

被告らは本件事故による叙上損害金を任意に支払わないため、原告は、その取立のためやむなく本訴の提起追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用として金五万円の支払を約したものであり、したがつて、原告は同額の損害を被つたものである。

四  その他

原告は、浅川から本件事故の損害の一部として、金五万円の支払を受けた。

五  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自金三九万九六二円及び弁護士費用を除く内金三四万九六二円に対する本件交通事故発生の日である昭和五〇年四月二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害の支払を求める。

第三被告らの答弁

被告らは、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求原因一の事実中、原告主張の日時場所において、浅川運転の加害車両が被災計量機を破損したことは認めるが、事故の態様については知らない。また、被災計量機が使用不能になつたとの点は否認する。

二  請求原因二本文の事実中、浅川が被告会社従業員であること、及び浅川に過失があつたことは否認するが、その余の事実は認める。被告らの責任に関する原告の法的主張は争う。

同項なお書きの事実は、否認する。浅川は、被告会社の正式従業員ではなく下請として陸送を行つていた者であり、被告会社は浅川に仕事がある毎に仕事をさせていたものである。本件事故は、原告従業員の誘導ミスにより惹起されたものであつて、過失は専ら原告にある。すなわち、浅川の運転していた加害車両は三菱ふそう大型貨物自動車(一一・五トン車)であり、給油所のような特殊の場所においては自ら安全を確認するほか、給油所の従業員の誘導は不可欠であるところ、前記給油所では特に誘導の必要が大であり、同所の従業員四、五名が誘導にあたつた。本件事故は、その誘導に従つて発進した際の事故であり、浅川には過失はない。

三  請求原因三の事実中、(一)及び(二)は知らない。また、同項(三)の事実は、否認する。被災計量機は、接触直後の応急措置で使用可能となり、現実に事故直後に貨物自動車二台に給油した。同項(四)の事実は争う。

四  請求原因五は、争う。

第四証拠関係〔略〕

理由

(事故の発生)

一  原告主張の日時場所において、浅川運転の加害車両が被災計量機を破損したことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に、証人島田正司の証言により成立の認められる甲第六号証並びに証人斉藤一昭、同島田正司(一部)及び同浅川一典(一部)の各証言を総合すれば、原告会社萩中給油所は、東京空港方面より蒲田方面に至る幅員約八メートルの道路左側に面し、被災計量機は右道路から約六・五メートル左奥に右道路に直角に設置されていたところ、浅川は、加害車両に給油してもらうため、初めて原告萩中給油所に入り、軽油用の被災計量機と約一メートルの間隔をおいて右道路と直角に停車し、加害車両の給油完了後、同所を出るにあたり、同所は被災計量機の他にも計量機等が設置されており、また、同所前の公道(幅員八メートル)は車両の往来があるため、加害車両のような大型車が同所から出るには若干困難を伴うと思われる状況であつたことから、同所従業員二名が加害車両の前方に左右に分れて公道への発進の誘導にあたり、浅川は、右誘導を受けながら加害車両を時速約五キロメートルの速度で東京空港方面にゆつくり右折進行し始めたが、その際、右にハンドルを転把しすぎたうえ、誘導者の方に気を取られて、自車左後部をバツクミラーで確認するのを怠り、自車左前方で誘導にあたつた島田正司が加害車両と被災計量機との接触の危険に気付き、手を挙げて停止の合図をしたのを認め、直ちに急停止措置を採つたが、間に合わず、自車左後部を被災計量機に接触させるに至り、右接触のため被災計量機は菱形に変形し公道に向いて傾き、モーターは回転するものの漏油を生じ使用不能の状態になつたこと、及び前記給油所においては、大型車の出入りに関し同種事故はなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人島田正司及び同浅川一典の各証言部分は上掲認定に供した各証拠に照らし、採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(責任原因)

二 被告会社は、自動車の陸送を業とする会社で、被告榎本はその代表者取締役であること、本件事故は、被告会社が三菱ふそうから加害車両の陸送の依頼を受け、浅川に大阪まで陸送させる途中において起こつたものであることは当事者間に争いがないところ、証人斉藤一昭及び同浅川一典の各証言によれば、被告会社は、運転手一〇数名、配車係二名(内一名は経理係兼務)を擁し、被告榎本自ら業務を監督する被告榎本の個人会社のようなものであり、浅川は、新聞広告の求人で被告会社に応募し、被告榎本らの面接で採用され、本件事故まで二か月間被告会社で稼働しているが、その雇用形態は被告会社から命ぜられた自動車の陸送等の仕事に対し一定額の月給が支給されるというものであることが認められ、右事実によれば、浅川は、被告会社の従業員と認めるべきである。もつとも、証人斉藤一昭の証言中には、浅川が被告会社の下請人にすぎない趣旨の被告らの主張に副う供述部分があるが、右供述部分は前記認定の事実に照らし、採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、叙上確定した事実に徴すると、本件事故は、浅川が被告会社の業務を執行中、誘導員の誘導に気を取られ自ら自車後方の安全を確認する注意義務を怠つた過失に起因するものというべきであり、被告会社は浅川の使用者として、被告榎本は事業の代理監督者としてそれぞれ原告の損害を賠償すべき責任があるものというべきである。

(過失相殺)

三 ところで、前記認定の本件事故の態様によると、原告萩中給油所の従業員は、加害車両が安全に発進するため必要と考え、二名がその誘導にあたつたが、誘導するにあたつては、浅川の確認しにくい部分の安全確認をし、同人の運転に対し適宜の指示を与えて加害車両を安全に給油所から出発せしめるべきであるのに、浅川が右にハンドルを転把しすぎたことにつき注意を換起せず、かつ、加害車両の進行状況に較べ停止の合図が遅きに失した点において、その誘導指示につきやや適切を欠く点があつたものというべく、右原告の過失を本件損害賠償額を決するにあたり斟酌するを相当とするところ、本件事故現場の状況、本件事故の態様等に照らすと、過失相殺として原告の損害額から二割を減額するのが相当である。

(損害)

四 よつて、以下原告の被つた損害について判断する。

1  証人斉藤一昭の証言により成立の認められる甲第一号証の一ないし四、同証人および証人島田正司の各証言を総合すれば、原告は、本件事故により破損した被災計量機の修理を日本エンジニヤサービス株式会社に依頼し、代替計量機の賃借料を含めその代金等として金二七万四、〇四〇円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  証人斉藤一昭の証言により成立の認められる甲第二号証及び同証人の証言を総合すれば、給油所における機械の設置撤去には消防署係官の立会が必要であり、原告は、本件事故による被災計量機の撤去及び修理完了後の同機の設置のため消防署に立会を求める申請書の印紙代として金六万円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  証人島田正司の証言により成立の認められる甲第三号証の五、六、第四号証の一ないし三及び第五号証並びに同証人の証言を総合すれば、萩中給油所では、軽油用計量機は、被災計量機だけしかなく、本件事故後被災計量機の撤去と代替計量機の仮設による営業再開まで三日間軽油の販売ができなかつたこと、当時における軽油の販売量は、昭和五〇年一月(営業日数二三日)四三、四七九リツトル、同年二月(同二三日)五〇、六六九リツトル、同年三月(同二五日)五七、二五四リツトルであり、一日当り二、一三二リツトルの売上げがあつたこと、当時の軽油の仕入価格は一リツトル当り金四八円一〇銭、販売価格は同じく金五七円であつて一リツトル当り八円九〇銭の利益があつたことが認められ、以上によれば、本件事故による三日間の休業による損害は金五万六、九二二円を下まわることはないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

4  以上によると、原告が本件事故により被つた損害額(弁護士費用を除く。)は、合計金三九万九六二円となるところ、前記説示したところにより原告側の過失を斟酌し原告の右損害額の二割を減額すると、被告らは各自金三一万二、七六九円(円未満切捨)を原告に賠償すべきところ、原告が浅川から本件事故の損害の一部として金五万円の支払を受けた事実は原告の自認するところであるから、これを右金額から控除すると、被告らの賠償すべき額(弁護士費用を除く。)は金二六万二、七六九円となる。

5  原告が弁護士(原告訴訟代理人)に本件訴訟の追行を委任したことは弁論の全趣旨から明らかであるところ、その弁護士費用は、本件訴訟の難易、認容額等にかんがみると、金三万円をもつて、本件事故と相当因果関係ある損害とみるのが相当である。

(むすび)

五 以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自、右合計金二九万二、七六九円及び弁護士費用を除く内金二六万二、七六九円に対する不法行為の日である昭和五〇年四月二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条及び第九三条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 島内乗統 有吉一郎)

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